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2023/11/17

当事者の声を聞こう2【コラム】

このたび、ニューロダイバーシティについてのコラムを担当する、長谷川祐子と申します。 このコラムでは、私自身が幼少期から学生時代を経て社会人になり、企業における障がい者の雇用問題の当事者になり、それを元にライターとして記事を書くようになるなど、発達障がいと社会のつながりについて感じてきたことをつづっていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

当事者の声を聞こう(書籍のご紹介)

今回、「当事者の声を聞こう」というコンセプトで、自閉症のある人が周りに理解してもらおうと、自らの見ている世界や感じていることをつづった書籍を紹介します。

2007年、『自閉症の僕が跳びはねる理由』という、会話のできない中学生が内なる心をつづった本が出版されました。当時、発達障害者支援法ができてまだ2年、当事者の書いた本はまだ珍しかったです。

この本を書いた東田直樹さんは、1992年千葉県生まれ。会話のできない重度の自閉症であり、養護学校に通っていました。しかしながら、パソコンや文字盤ポインティングで他人とのコミュニケーションを取ることができています。文字盤ポインティングとは、話そうとすると消えてしまう言葉を引き出すために考えたコミュニケーション方法で、画用紙に書かれたキーボードと同じ配列のアルファベットを、ローマ字打ちで一文字一文字指しながら自分の思いを伝えます。東田さんが本当の自分の言葉を人に伝えられるようになるまでには、長い時間がかかったといいます。

『自閉症の僕が跳びはねる理由』は、世界30カ国以上で出版され、累計販売部数は117万部を超えています。英語でのタイトルは”The Reason I Jump”。2022年には『僕が跳びはねる理由』というタイトルで映画化されました。

自閉症のある人が、これほどやさしいことばで、自らの見ている世界や感じていることをつづり、自閉症のない人と対話した文章を、私は見たことがありません。それが国境をも越えて多くの人を惹きつけることになったのだと思います。

本の目次は、「自閉症の人はなぜこうなのか?」という数々の疑問に答える形になっています。

第一章 言葉について 口から出てくる不思議な音

 筆談とは何ですか?/大きな声はなぜ出るのですか?/いつも同じことを尋ねるのはなぜですか? 他

第二章 対人関係について コミュニケーションとりたいけれど……

 どうして目を見て話さないのですか?/自閉症の人は手をつなぐのが嫌いですか?/みんなといるよりひとりが好きなのですか? 他

第三章 感覚の違いについて ちょっと不思議な感じ方。なにが違うの?

 跳びはねるのはなぜですか?/空中に字を書くのはなぜですか?/自閉症の人はどうして耳をふさぐのですか、うるさいときにふさぐのですか? 他

第四章 興味・関心について 好き嫌いってあるのかな?

 色んな物を回しているのはなぜですか?/手のひらをひらひらさせるのはなぜですか?/ミニカーやブロックを一列に並べるのは、なぜですか? 他

第五章 活動について どうしてそんなことするの?

すぐにどこかに行ってしまうのはなぜですか?/すぐに迷子になってしまうのはなぜですか?/どうして家を出て行くのですか?

(Q&A 全58項目)

「跳びはねる理由」については(引用は原文ではなく要約)、

体が悲しいことや嬉しいことに反応する時に跳びはねることがある。跳びはねている時、気持ちは空に向かっている。何かが起こった瞬間、雷に打たれた人のように硬直する。硬直とは自分の思い通りに身体が動かなくなることで、縛られた縄を振りほどくように跳びはねる。そのまま鳥になって、遠くへ飛んでいきたい気持ちになる。

東田さんはよく「空中に字を書く」といいます。

覚えたいことを確認するために書いている。書きながら見たものを思い出す。寂しい時、嬉しい時、人が歌を口ずさむように、僕たちは文字を思い出す。

「自閉症の人は普通になりたいか?」という問いには、こう答えています。

自分を好きになれるのなら、普通でも自閉症でもどちらでもいい。障害のある無しに関わらず人は努力しなければいけないし、努力の結果幸せになれるから。僕たちは自閉症でいることが普通。

『自閉症の僕が跳びはねる理由』で述べられる東田さんの感覚と、私の感覚は、全て一致するわけではありませんが、重なる部分は多くあります。

実は私も、「急に席を立って走り出し」「空中に文字を書く」ことがあります。その時に、周りの人にはどうしてほしいかというと、できればそっとしておいてほしい。「他人の目を気にせず一人になれる空間や時間を適度に確保する」のが、お互いにとっていい関係を保てる方法だと思います。どうしてもじっとしていなければならない場面では、そうする方法を考えます。

障がいでも、身体障がいはおおむね見た目で分かりやすいといわれます。一方で、発達障がいは見た目では分かりません。「どこまでが障がいで、どこからが性格なのか」「どこまで受け入れるべきなのか」と疑問が出されることもあります。

それまで社会的にも自閉症のある人の独特の行動は奇異に見られ、「なぜこうなのか」と口にすることすらタブー視されてきました。時には、周囲から奇異に見られる行動を取っている時の感覚が、当事者本人にもうまく説明できない、ということもありました。当事者にとって周囲とコミュニケーションを取ることは課題です。

自閉症をはじめ発達障がいのある人と接する人のなかには「一方的に我慢しないといけない」などと思い詰めて、うまくいかないことがストレスになる、という人も見られてきました。正式な病名ではありませんが、「カサンドラ症候群」といわれます。

ですが東田さんは、「どうしてこだわるのですか?」という問いに、こうつづっています。

僕たちだって好きでやっているわけではないのですが、やらないといてもたってもいられないのです。

(中略)もし、人に迷惑をかけるこだわりをやっているのなら、何とかしてすぐにやめさせて下さい。人に迷惑をかけて一番悩んでいるのは、自閉症の本人なのですから。

最近、特にインターネット上で「カサンドラ」というキーワードが独り歩きして、発達障がいの人に対して「とても一緒にやっていけそうにない」という心のバリアを強めている人がいるのではないでしょうか。そうした傾向があるとすれば、結果としてその特性のある人と共に生きる意識を逆行させ、不要な軋轢や分断につながりかねません。

私にとってこの本は、自分の感覚を言語化して伝えるうえで参考になる点が多いです。発達障がいの人の誰もが言語化を自然にできるわけではないなか、東田さんは豊かな表現力で相互理解の道を拓いてくれました。東田さんに感謝します。

東田さんは、この本の最後の「自閉症についてどう思いますか?」という問いには、こう述べています。私も同じ気持ちです。

僕たちが存在するおかげで、世の中の人たちが、この地球にとっての大切な何かを思い出してくれたら、僕たちは何となくうれしい。

東田さんはこの他にも、自閉症について多くの本を出版しています。2021年10月には『Forbes JAPAN』誌が選ぶ、「世界を変える30歳未満の30人」に選出されました。2023年8月には最新刊「自閉症が30歳の僕に教えてくれたこと」を出版しました。