運営会社
© ︎KYUSHU NEURO DIVERSITY PROMOTION FORUM
COLUMN

コラム

コラム
2023/11/10

ニューロダイバーシティサミットで語られたこと【コラム】

このたび、ニューロダイバーシティについてのコラムを担当する、長谷川祐子と申します。 このコラムでは、私自身が幼少期から学生時代を経て社会人になり、企業における障がい者の雇用問題の当事者になり、それを元にライターとして記事を書くようになるなど、発達障がいと社会のつながりについて感じてきたことをつづっていきます。どうぞよろしくお願いします。

ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2023

2023年9月、「ニューロダイバーシティサミットJAPAN 2023」が、会場とオンラインのハイブリッドで開かれました。

このイベントは、発達障がいに特化した就労支援会社Kaien(本社:東京都新宿区)の鈴木慶太社長が、アメリカ・カリフォルニア州の有名私立大学、スタンフォード大学で年に一度開かれる”Stanford Neurodiversity Summit”に刺激を受けて、その日本版として企画しました。

スタンフォード大学のニューロダイバーシティサミットでは、発達障がいがありながら各界で活躍する人の講演、発達障がいの人の教育や就労を支援するプログラム紹介やディスカッションなどが行われます。2022年の参加者は2500人ほどだったといいます。アメリカはもちろん、カナダ、イギリス、オーストラリアなどからも研究者・医師・専門家が参加して、最新研究が披露されます。研究は医学的なものを中心に、二次障害・トラウマ・LGBTQとの複合マイノリティ性、合理的配慮や自己権利擁護の実践、司法での支援の在り方など、多岐にわたります。ITの技術者や起業家を多く輩出するスタンフォード大学が主催していることもあって、当事者をいかに高校から大学へ接続するかをめぐる話題、ニューロダイバーシティ人材の起業をめぐる話題、ニューロダイバーシティ向けサービスを提供するスタートアップをめぐる話題も上るということです。まさにニューロダイバーシティをめぐるグローバルな最先端の流れを知ることができます。オンラインでの生配信もされており、日本からでも参加できます。

「ニューロダイバーシティサミットJAPAN」は、2022年に始まり、今年で2回目。日本の発達障がいを取り巻く事情に沿った形の数々のセッションを通して、日本ならではのニューロダイバーシティを盛り上げていく場として作られています。

サミットで行われたこと

2023年のセッションには、発達障がいを専門にする医師の講演、ギフテッドと言われるプロ棋士の講演、発達障がいの人の雇用の成功事例紹介、発達障がいのある高校生による感覚過敏の啓発・研究活動の紹介、普通学級で生きづらい子の学びをサポートする取り組み紹介がありました。ニューロダイバーシティという言葉の定義をめぐるディスカッション、障害福祉制度をめぐるディスカッションもありました。

「発達の主張」という、募集を通して選ばれた様々なユニークな活動をする当事者が、プレゼンテーションをするセッションもありました。そこでは、発達障がいの当事者会や自助会を運営する人、メイド喫茶で働く人、創作活動をする人などが、自分たちの活動を発表していました。

私も「発達の主張」に登壇しました。そこでは、「企業は人権を守ったビジネスを」とする国際的な潮流があり、日本も国連からの調査の対象になっていることや、海外では企業のESG(環境・社会・ガバナンス)が投資家から注目されていることに触れ、自分は発達障がいの人の雇用労働・キャリアをめぐる問題を取材していることを発表しました。取材していくうちに、マイノリティの立場にあり疎外されがちな当事者が企業での差別や人権の問題に非常に声を出しづらい状況があるのに気づいたこと、自分が個別の事案について、事実を集め、関係者と対話しながら、何が問題の本質なのかをわかりやすく丁寧に伝えてきたことを語りました。そして「声をあげづらい社会を変えていこう」と呼びかけました。

発達障害10大ニュース

「発達障害10大ニュース」では、2022年9月~2023年9月にかけて社会的関心が高まった、発達障がいをめぐる時事的なトピックが取り上げられました。2023年は以下の通りでした。

1位 文科省調査 特別な教育的支援を必要とする児童生徒 8.8%

「学習面、行動面で困難を抱える子どもが通常クラスにこれだけいる」という調査結果が発表されました。特別なニーズのある子どもに、教育はどう向き合っていくべきでしょうか。

2位 貸農園の障害者雇用代行業(批判受けても過去最高更新 S社)

「代行ビジネス」報道で貸農園業者の株価が一時ストップ安になった事態もありました。そうは言っても、事情があって「そこしか働く場所がない」という人がいます。代案なき批判より、どのような雇用のあり方ならいいのか、提案が求められています。

3位 障害者雇用率を段階的に引き上げ、2026年度中に2.7%へ

法定雇用率の引き上げで働きたい障害者に追い風になりそうです。一方で、数字だけ引き上げても強引な採用がされ、合理的配慮できずトラブルが増えるのを懸念する声もあります。ついには採用された社員が被害を訴えるような事態も起きました。

4位 サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者 厚労省の新方針

就労支援関係者の間で注目されたニュース。サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者のハードルが低くなる方針が発表されました。

5位 支援者対決【人間 vs. AI】 ChatGPTを障害福祉で活用できる?

急速に発展する生成AI、ChatGPT。障害福祉に関する質問にも答えてくれます。意外に難しい社会問題が絡む悩み相談にも答えてくれます。ですが実のところ、どこまで信用できるのか、どこまで活用できるのか、人による検証と改善は必要です。

6位 怪しいメンタルクリニックはなぜ繁盛するのか?

ある芸能人があるメンタルクリニックに通って「私はADHD」と告白しましたが、それを「怪しいメンタルクリニック」と指摘する声が注目されました。

7位 特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業

ギフテッドの子どもが「普通の教室に押し込まれて」生きづらさを抱えていることが伝えられています。文科省が、そのような子どもが才能を伸ばすための支援に乗り出してますが、その中身は検証されるべきでしょう。

8位 増える労働訴訟 一般雇用での障害開示タイミング

発達障がいの人への合理的配慮をめぐる労働訴訟が各地で起きていることが社会的なイシューとなりました。Kaienは、広島地裁での訴訟で問題になった一般雇用での障害開示について、発達障がいをオープンにした当事者弁護士が解説するプログラムを配信しました。

9位 国連が要請した“分離教育”の中止「考えていない」と永岡文科相

日本が国連から、「障害児と健常児は別々の教室で学ぶのが当たり前としているのを変えるべき」と勧告を受けたニュースが注目されました。発達障がいの子どもが通常のクラスで学ぶのがいいかどうかは、保護者によっても意見が分かれています。インクルーシブ教育はどうあるべきでしょうか。

10位 性犯罪歴の確認は放課後等デイサービスでも必要?―日本版DBS

教育に携わる人物から子どもが性被害に遭う事件が起きている現状があるなか、不幸な事件をなくすために教育現場で性犯罪歴の確認を行う「日本版DBS」が注目されています。日本では制度化が難しい事情は何なのでしょうか。

多様性をテーマにしたイベントには、論争を呼ぶ話題や登壇者を避け、予定調和に沿って進められて、「こんなに素晴らしい取り組みがされています」という美談や宣伝が殆どを占めるのをよしとするものも見かけます。

ですがニューロダイバーシティサミットでは、まさに多様な脳神経の人が本音ベースで語り合える雰囲気があると感じます。ニューロダイバーシティのいまを知るのに良いイベントです。来年はもっと盛り上がることが期待されます。