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2023/11/07

「当事者の声を聞こう。等身大の発達障がいを描くドラマを通して」【コラム】

このたび、ニューロダイバーシティについてのコラムを担当する、長谷川祐子と申します。 このコラムでは、私自身が幼少期から学生時代を経て社会人になり、企業における障がい者の雇用問題の当事者になり、それを元にライターとして記事を書くようになるなど、発達障がいと社会のつながりについて感じてきたことをつづっていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

ドラマで描かれた発達障がい

発達障がいが登場する作品のなかでも、等身大の当事者の声や、当事者のリアルな社会的状況が反映されて作られたドラマに、「僕の大好きな妻!」(東海テレビ・フジテレビ系)があります。2022年6月~7月に深夜の時間帯に放映されました。

ドラマは、漫画「僕の妻は発達障害」(月刊コミックバンチで2020年5月号より連載)が原作です。実際に発達障がいのある妻のナナトエリさんと、夫の亀山聡さんの夫妻が、自らの体験を元に想像を働かせて描きました。ナナトさんは漫画家になる前にアパレル業界で接客をしていたことがあり、その経験も作品に反映されました。また、ナナトさんの主治医が医療監修を務めています。

ドラマの制作には、自閉症の子の親を中心とする東京都自閉症協会や、ナナトさんも通った発達障がいのある人が交流できる「Neccoカフェ」も協力しました。Neccoカフェがモデルになった「発達カフェ」もドラマに登場します。

さて、作品の見どころを書いていきます。

漫画家を目指す主人公・悟の妻・知花は、結婚後に発達障がいと診断されました。知花はアパレルの店員として働いていましたが、すぐクビになってしまい、そのことがきっかけで知花は「発達障がいかもしれない」と言い出し、診断につながりました。

悟と知花の結婚生活では、知花の発達障がいの特性からくるトラブルが絶えないものの、それらを愛の力で乗り越えていきます。

ドラマには知花の両親も出てきます。しっかり者の母親と、おおざっぱな父親。母親は知花の幼い頃、「うちの子はどうしてできないの!?」「なんで落ち着きがないの!?」と、発達障がいの特性からくる失敗に厳しくしかりつける日々でした。

そんな母親でしたが、知花に発達障がいがあったとわかってからは、「エジソンは発達障がいだった、アインシュタインも発達障がいなのよ、だからあなたも」と励まそうとします。しかし、自分を天才だと思っていない知花は、追い詰められた気持ちになり、「ありのままの私では認めてもらえないの?」と訴えます。

知花は、母親とぶつかることもありましたが、むしろ子どもの頃から母親から認めてもらいたくて頑張りすぎていた、という印象を私は持ちました。最近、子ども目線で過干渉な親を指して「毒親」と言われる傾向があります。知花は母親を「毒親」と言わず、むしろ自分を親目線で育てにくい「毒子」なのかもしれない、と言います。

また、知花に厳しくあたる母親に、父親は「落ち着いて」「大丈夫」「気にしない」となだめてきました。しかし、昔から父親は仕事で忙しく、母親がワンオペ育児状態でやってきた経緯がありました。知花は父親を「ことなかれ主義」と言います。

子どもをあるがままに受け入れること、母親を孤立させないこと、家族みんながそれぞれ歩み寄り、相互理解することが大切、と考えさせられます。

第5話からは、知花がアパレルの派遣店員として働きます。

知花はアパレルの接客業が好きでしたが、それまで失敗を重ね、店を転々としてきました。

私は最初、知花が働くことになったアパレルの店を見ていて、「どこか思考停止している」という印象を持ちました。疲弊した職場環境、派遣店員には理由を説明しないで個人の主観でいつでもクビにするのも当たり前―そんな現状でした。

知花は、店長・貴子に違和感を持たれたことから、7日でクビになってしまいます。知花は、客の懐に入っていくのがうまく売上に貢献できますが、不注意から商品の服を落としてしまうことがある、現金の計算を間違えることがある、正直に発言しすぎる、暗黙のルールがわかりづらい、聴覚過敏を抱える、という難点がありました。

第6話、貴子に「あなたとは働けない」と言われたにもかかわらず「働きたい」と言う知花。そんな知花がとった行動は、「仕事を見て覚えるために」と言って、クビになった店に押しかけたり、貴子の息子の看護に家まで押しかけたり、というものでした。貴子は喘息のある中学生の息子と2人で暮らすシングルマザーでした。発達障がいの人が相手の都合を考えずに「正しい」と思った信念で行動してしまう、ということはよく言われてきました。「普通」ならこうした行動も抑えるように指導されるのですが、ドラマならこのくらいの展開はあってもいいと思います。

知花の行動は、周囲に変化を起こしました。第7話、貴子が知花を再び雇うと決めました。貴子は、「売上に貢献できるスタッフを雇うのは当然」「できないところはフォローする」と他のスタッフに言い張り、発達障がいに関する本を読んで勉強したりしていきました。副店長・由やアルバイト店員・早紀は戸惑いますが、貴子に言われたように、知花と一緒に何とかやっていこうとします。早紀は次第に、知花の側に協力的に傾いていきます。

知花の方も、できないことばかり並べて「あれもして、これもして」と配慮ばかり求めるのではなく、どこが良くなかったのかを周囲に尋ねる、具体的な困りごとを開示する、できないところは自分なりに補うようにします。ここも良いです。

ですが、店は一時崩壊寸前に陥ります。貴子は知花をサポートしていくうちに、過労で倒れてしまいます。知花は仕事についていこうと必死に頑張ってきましたが、抑うつ状態になり、出勤できなくなります。最後まで知花をサポートすることに抵抗していた由は、店を辞めることを考え始めます。

私もどうなるかと思いましたが、最終話では貴子が決断力を発揮して本社と交渉します。その結果、「店の売上ノルマはなくし、現金を扱うのを廃止してキャッシュレス決済にし、店員がそれぞれ得意なことに特化した持ち場を守るようにして、効率的な働き方にする」という着地点になりました。貴子の呼びかけに、知花も、早紀も、由も、一致団結し、「店を盛り上げていこう」と意気込むようになったところで、ドラマは終わりを迎えます。

当事者から見れば「一方的にいまの社会の普通に合わせていかなければならない」、あるいは周囲から見れば「一方的に当事者をサポートしなければならない」のとは異なる道が模索されました。障害の個人モデルとは異なる社会モデルに沿った方向性でした。誰か一人のためではなく、誰もが希望を持てる形です。この店がその後、どう発展したのか、想像するのが楽しみな終わり方です。

「発達障がい=エジソンやアインシュタインのような天才」ではなく、また「発達障がい=仕事に就けないかわいそうな人、周囲とトラブルを起こしやすい迷惑な人」でもなく、様々な特性のある人がいるということが描かれました。ドラマに登場する、知花以外にも発達障がいのある人には、熱烈なトークで人を惹きつける営業マンもいました。発達障がいの人が接客業や営業職も含めた様々な職種に就いている、ということが示されています。また知花が言っていたように、発達障がいの人がすべて障がい者雇用枠で働くことを望んでいるわけではなく、「一般雇用のなかで頑張っていきたい」「一般雇用でも発達障がいをオープンにし、理解を得ながら働きたい」という人もいることまで伝えられました。

周りの声を聞く

ナナトさんはインターネットのニュースサイトのインタビューに、「どんな人たちなのかという知識さえつけていれば、驚くことなんて何1つないんですよね。ただの個性なので」「いわゆる変わった人たちと言われてしまう人たちを、変わった目で見なくなったときに、人を許せるようになるんです。いちいち腹を立てることではないと思うと、夫婦間でも“なんだこれは?”ということがなくなっていきました」と述べました。もうひとりの原作者で夫の亀山さんは、「毎日のように彼女と話していると慣れてくる。またトラブルが起きてるなって感じで、感覚がだいぶ変わりました」と述べました。

私はドラマが放映されていた期間、報道やインターネットでの反応を見ていました。Neccoカフェを運営する「発達障がい当事者協会」副代表の金子磨矢子さんは、ニュースサイトのインタビューに、「発達障がいの人が主役になっているドラマは他にもあったんですが、自閉症だったり、特別な人みたいな感じだったり。発達障がいが誰にでもある身近な存在として取り上げてもらえたのは初めてで、自分ひとりではないことを知ってもらえたのではないか」と述べました。X(旧Twitter)の当事者を名乗るアカウントからも、おおむね好意的な意見が多く見られたのを覚えています。

一方で、「発達障がいの役を、発達障がいの当事者が演じるのも見たい」と言う当事者の声も見かけました。「僕の大好きな妻!」では、知花を演じたのは、発達障がいのない、人気のアイドルでした。ですが、発達障がいに限らず、映像作品で社会的マイノリティの役を当事者が演じることで、社会的マイノリティの活躍機会の創出になるうえに、社会的マイノリティの人物をより正しくリアルに描き、誤解や偏見を排除した作品作りができるようになる可能性はあります。

漫画「僕の妻は発達障害」、ドラマ「僕の大好きな妻!」は、ニューロダイバーシティを考えるのにとても良い題材です。当事者の声を丁寧に聞くことで、誰もが生きやすく、豊かな社会を作っていける、と思います。もっと詳しく知りたい方は、漫画やドラマを実際に見てみることをお勧めします。